特定運転者の指導記録簿|3種類と残し方を解説
目次
特定運転者への指導は、やってはいるのに記録が残っていない、という形でいちばん指摘を受けます。新しく入った人に先輩が横に乗って教えている。事故を起こした人に所長が話をしている。実際にはやっているのに、紙が1枚も無い状態です。
この記事では、特定運転者が誰を指すのか、3つの区分で何をどれだけやることとされているのか、そして記録をどう残すのかを整理します。指導の中身より、残し方に重心を置いて書きます。
結論:特定運転者とは「初任・高齢・事故惹起」の3つ
特定運転者とは、一般の運転者に行う指導とは別に、追加の指導が求められる運転者のことです。一般には3つの区分があるとされています。
1つ目が初任運転者で、新たに雇い入れた運転者が対象です。2つ目が高齢運転者で、一定の年齢に達した運転者が対象になります。3つ目が事故惹起運転者で、事故を起こした運転者が対象です。
ポイントはここです。3つとも、発生するきっかけが別々です。採用のとき、誕生日が来たとき、事故が起きたとき。だから「年に1回まとめて」という運用にすると、その間に発生した人が漏れます。
一般には、貨物自動車運送事業輸送安全規則にもとづいて、指導と監督を行い、その記録を残すこととされています。全運転者に対する定期の指導とは別枠なので、両方が要るという点も押さえておきます。
初任運転者の指導は時間数が決まっている
3つのうち、いちばん重いのが初任運転者への指導です。ここだけ時間数の定めがあるため、記録の作り方も変わります。
一般には、座学にあたる指導と、実際に運転させて行う指導のそれぞれに、最低限の時間数が定められているとされています。「一通り教えた」では足りず、何時間やったかを残すことになります。
だから記録の様式も、日付と項目だけでは足りません。実施した日、項目、かかった時間、指導した人、受けた人。この5つが要ります。1日で終わらないので、複数の日に分けて積み上げる形になります。
予定表は、採用が決まった時点で作ります。入社してから考え始めると、現場の都合が先に入って崩れます。何日かけて、どの日に誰が付くかまで決めておけば、忙しい時期でも積み上がります。
途中で止まったまま運行に出してしまうのが、いちばんよくある失敗です。忙しい時期に採用すると、数時間だけやって現場に出し、残りが宙に浮きます。予定表を先に作って、どの日にどの項目をやるかを決めておくのが確実です。
時間数や項目の詳細は制度で定められているため、所轄の運輸支局や地域のトラック協会が配っている手引きで確かめてから始めます。
高齢運転者と事故惹起運転者の指導
残りの2つは、初任ほど形が固まっていないぶん、記録の残し方で差が出ます。
高齢運転者への指導は、適齢診断の結果をもとに行う形が基本とされています。診断で出た傾向を本人に伝えて、運転の仕方や運行の組み方について話す。診断と指導が対になっているので、片方だけ記録が残っていると不自然に見えます。
事故惹起運転者への指導も同じ形で、特定診断の結果をもとに行います。こちらは事故の内容そのものを振り返る部分が加わります。
事故のあとの指導は、感情が入りやすい場面です。責める場になってしまうと、本人が話さなくなり、原因が出てきません。運行の組み方に無理がなかったか、荷主の都合で急いでいなかったか。記録に書くときも同じです。「本人の不注意」で終わっている記録は、読み返しても次に使えません。その日の運行の条件、時間の余裕、荷主からの連絡。書ける範囲で状況を残しておくと、同じ場面が来たときに効きます。
会社側の要因も一緒に見る形にすると、次につながる記録になります。
「やっているのに記録が無い」を潰す
この分野でいちばん多いのは、指導をしていない会社ではありません。していることが残っていない会社です。だから、まず記録が生まれる形を作ります。
原因は3つに決まっています。1つ目が、指導が日常の中に溶けていることです。先輩が横に乗って教えるのは指導ですが、現場ではただの同乗と区別がついていません。それが指導だと当事者が思っていないので、紙を書く発想が出てきません。
2つ目が、様式が手元に無いことです。書こうと思ったときに用紙が無ければ、その場は口頭で終わります。3つ目が、書く人が決まっていないことです。指導した人が書くのか、運行管理者が書くのかを決めていないと、お互いが相手を待ちます。
対策は簡単です。用紙を運行管理者の机に置いておき、同乗を頼むときに用紙も一緒に渡します。「これを書いて戻してください」まで言えば、書かれます。書く人は同乗した人にしておくと、内容が具体的になります。
記録に残す5つの項目
3区分に共通して、記録に入れるものを整理します。様式は自社で作って構いませんが、この5つは外しません。
実施した日、対象になった運転者の氏名、指導した内容の項目、指導した人の氏名、そして初任であれば時間数。
5つのうち時間数だけは、初任以外では必須ではありません。ただし書いておくと、どれだけ手をかけたかが残ります。30分の面談と3時間の同乗が同じ1行に見えるのは、もったいないところです。
指導した人の氏名が抜けている記録が多くあります。誰が教えたかが分からないと、内容の質を確かめようがありません。先輩の運転者が同乗して教えた場合は、その人の名前を書きます。
内容の項目は、具体的に書きます。「安全運転について」では、何を教えたか分かりません。「トンネル出口の横風」「バックでの巻き込み」「荷崩れを防ぐ積み方」。その運転者に必要だったことが1つでも書いてあれば、記録として意味を持ちます。
3区分が重なる人がいる
実務で迷うのが、1人で2つ以上に当たる場合です。高齢の運転者を新しく雇い入れた、事故を起こした運転者が高齢でもある、という形です。
このときは、どちらか一方で済ませないのが原則になります。区分ごとに目的が違うからです。初任は自社のやり方を覚えてもらうためのもの、高齢は身体の変化に合わせるためのもの、事故惹起は起きたことを振り返るためのものです。
実施の順番にも目安があります。初任が先で、そのあとに高齢の内容を足す形が自然です。自社のやり方を知らないうちに身体の話をしても、結びつきません。
記録も分けて残します。同じ日にまとめて実施すること自体は構いませんが、記録の行は区分ごとに分けておきます。1行にまとめると、あとで「高齢の指導はやったのか」と聞かれたときに示せません。
表の側も、区分ごとに列を持たせておきます。氏名の横に「初任・済」「高齢・◯年◯月」「事故惹起・該当なし」と並ぶ形にしておけば、重なりも空きも一目で分かります。
運転者台帳との関係
指導の記録は、運転者台帳の指導の欄にも反映します。ここで二度手間になることがあるので、役割を分けておきます。
台帳の欄には、実施した日と項目だけを書きます。詳しい中身は指導記録簿の側に残して、台帳からたどれる形にしておきます。台帳に全部書こうとすると、1人ぶんが何枚にもなり、開かれなくなります。
監査で見られるときは、台帳から入って記録簿に進む形が多くなります。台帳の欄が空いていると、記録簿があっても気づかれません。台帳のほうを先に埋めるのが、説明が早く終わるこつです。
台帳そのものの書き方は運転者台帳の書き方にまとめました。
対象者を先に洗い出す
これから整える場合の順番です。制度を全部読んでから始めると、いつまでも始まりません。
1つ目に、いまいる運転者を一覧にします。氏名、入社日、生年月日。運転者台帳から写せば10分で終わります。
2つ目に、3つの区分に当たる人に印を付けます。入社日が近い人は初任、生年月日から年齢が該当する人は高齢、直近で事故を起こした人は事故惹起。ここで、記録が無い人がはっきりします。
3つ目に、記録が無い人の扱いを決めます。初任の時期を過ぎている人に遡って初任の指導をすることはできないので、そこは埋められないものとして受け止めます。代わりに、今後発生する人に確実にやる形を作ります。
高齢と事故惹起については、まだ実施できる場合があります。該当していて未実施なら、いまから予定を組みます。
洗い出しの一覧は、そのまま管理の表になります。作り捨てにせず、月初に開く表として残しておきます。新しく入った人の行を足すだけで、以後は回ります。
過去を無理に埋めようとして、日付を遡って書くのがいちばんまずい対応です。適性診断の受診日や台帳の記載と突き合わせれば、辻褄が合わないことはすぐ分かります。無い部分は無いままにして、今後の形を作るほうが心証もよくなります。
保存の期間と、綴じ方
指導の記録をどれだけ持つかという話です。
一般には、指導と監督の記録は一定の期間保存することとされています。運行に関する日々の記録が1年とされているのに対し、こちらは年数が違う場合があるため、まとめて1年で外す運用にすると足りなくなることがあります。
綴じ方は、運転者ごとにまとめるのが向いています。点呼記録簿や日報が日付順に綴じるのに対し、指導の記録は「その人に何をやってきたか」を追う書類だからです。同じ棚に入っていても、並べ方の軸が違います。
退職した運転者の分は、運転者台帳と一緒に別のファイルへ移します。台帳は運転者でなくなった日から3年とされているので、指導の記録も一緒に動かしておくと、後から探しやすくなります。書類ごとの年数は運送業の書類の保存期間一覧にまとめています。
指導の中身を毎回考えなくてよくする
記録が続かないもう1つの理由が、毎回中身をゼロから考えていることです。ここは型を作ってしまいます。
3区分それぞれに、話す項目の一覧を1枚作ります。初任なら自社の運行の特徴、荷主ごとの注意、車両の癖、日報と点呼の書き方。高齢なら夜間と薄暮の見え方、疲れの出方、無理をしない運行の組み方。事故惹起なら事故の再現、原因の整理、同じ場面での代わりのやり方。
作るのに時間はかかりません。いま指導している人に「普段どんなことを話していますか」と聞いて、出てきたものを書き出すだけです。すでに頭の中にあるものを紙にする作業なので、半日で形になります。
この一覧があると、指導した人が変わっても中身が揃います。先輩ごとに教えることが違う、という状態が無くなります。記録の項目の欄も、この一覧から選ぶ形にすれば書くのが速くなります。
一覧は1年に1度は見直します。事故が起きた場所や、荷主の受け入れが変わった点を足していくと、その会社でしか作れない中身になっていきます。よそから借りてきた一般論の一覧のままだと、読んでも役に立ちません。
監査と巡回指導で見られるところ
どこを見られるかを知っておくと、準備が短く済みます。見られ方はだいたい決まっています。
1つ目が、対象者が漏れていないかです。運転者台帳の入社日と生年月日、それに事故の記録を突き合わせて、該当する人に記録があるかを見られます。台帳と指導の記録が合っていないのがいちばん見つかりやすい形です。
2つ目が、初任の時間数です。定めがある以上、合計が足りているかを数えられます。日付ごとの行に時間が入っていないと、合計が出せません。
3つ目が、指導した人の氏名です。空欄が続いていると、実際に行われたのかを確かめようがありません。
3つ目が空欄になるのは、書く人を決めていないことが原因であることがほとんどです。同乗した先輩に書いてもらう形にすれば、自然に埋まります。
3つとも、当日に作れるものではありません。日々の業務の中で残っているかどうかがそのまま出ます。逆に言えば、この3つさえ埋まっていれば、指導の記録で止まることはほとんどありません。
年に1回、台帳と指導の記録を突き合わせる日を作っておくと、指摘の前に自分で見つけられます。
まとめ
特定運転者は、初任・高齢・事故惹起の3区分です。3つとも発生のきっかけが別々なので、採用・誕生日・事故という場面に紐づけないと漏れます。初任だけは時間数の定めがあるため、記録に時間の列が要ります。
まず手を付けるなら、いまいる運転者のうち3区分に当たる人を洗い出すところからです。次に、指導した人の氏名の欄を様式に足すと、いちばん多い指摘が消えます。
なお、時間数や項目、保存の期間は制度で定められています。最終的な判断は、所轄の運輸支局にご確認ください。
指導そのものは、たいていの会社でやっています。足りないのは紙だけ、というのがこの分野の実情です。用紙を手の届く場所に置いて、書く人を決める。それだけで、指摘の大半は消えます。
よくある質問
特定運転者とは誰のことですか。
一般には、初任運転者、高齢運転者、事故惹起運転者の3つとされています。一般の運転者に行う指導とは別に、追加の指導が求められる運転者を指します。
初任運転者の指導は何時間必要ですか。
座学にあたる部分と実際に運転させる部分のそれぞれに、最低限の時間数が定められているとされています。数値は制度で決まっているため、所轄の運輸支局や地域のトラック協会の手引きで確かめてください。
中途採用で経験がある運転者も初任にあたりますか。
過去に運転者として選任されていた経歴がある場合の扱いは、期間や条件によって変わるとされています。自己判断せず、運輸支局に確かめるのが確実です。
指導は誰が行うのですか。
運行管理者の業務とされていますが、実車の指導では経験のある運転者が同乗して行うこともあります。その場合は、指導した人の氏名として同乗した人を書きます。
記録の様式は決まっていますか。
様式そのものが定められているわけではありません。ただし記録すべき事項があるため、日付・氏名・項目・指導者・時間数が入る形にしておきます。
指導記録簿は運転者ごとに綴じるのですか。
運転者ごとにまとめるのが向いています。点呼記録簿や日報が日付順なのに対し、指導の記録は「その人に何をやってきたか」を追う書類だからです。並べ方の軸が違います。
一般の運転者への指導は別に必要ですか。
別枠として必要とされています。特定運転者への指導は追加のものなので、全運転者に対する定期の指導を行ったうえで、該当する人にさらに行う形になります。