改善基準告示とは?拘束・休息・運転の3つで覚える
目次
改善基準告示は、調べ始めると数字が多すぎて頭に入りません。13時間、15時間、11時間、9時間、4時間、30分、284時間、310時間、3,300時間。並べられても、自分の運行のどこに当たるのかが分からないまま終わってしまいます。
この記事では、改善基準告示を3つの塊に分けて整理します。数字を全部覚えるのではなく、何を測っている数字なのかで分けると、自社の運行に当てはめられるようになります。
結論:改善基準告示は「拘束・休息・運転」の3つしか言っていない
改善基準告示とは、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準のことです。長い正式名称を縮めた呼び名で、厚生労働大臣が定める告示とされています。
中身は、突き詰めると3つのことしか言っていません。1日にどれだけ縛ってよいか(拘束時間)、次の勤務まで何時間空けるか(休息期間)、続けて何時間運転してよいか(連続運転時間)。数字が多く見えるのは、この3つにそれぞれ1日・1か月・1年の単位があるからです。
ポイントはここです。法律ではなく告示とされているため、それ自体に罰則の規定はありません。ただし、労働基準監督署の監督指導で違反が認められれば指導の対象になり、悪質な場合は運輸支局へ通報されて行政処分につながる形になっています。「罰則が無いから守らなくてよい」という読み方は成り立ちません。
1つ目の軸:拘束時間
拘束時間は、始業から終業までの全部です。運転していた時間も、荷待ちも、休憩も入ります。その日、会社に縛られていた時間の合計だと考えると分かりやすくなります。
一般には、トラック運転者について次の形が定められているとされています。1日は原則13時間以内で、延長する場合でも15時間まで。1か月は原則284時間以内で、労使協定があれば年6か月まで310時間まで。1年は原則3,300時間以内で、労使協定があっても3,400時間までです。
覚えるときのこつは、原則の数字だけを覚えることです。13時間、284時間、3,300時間。延長の数字は、労使協定を結んでいる会社だけが使うものなので、必要になってから調べれば足ります。詳しくは拘束時間とはにまとめました。
2つ目の軸:休息期間
休息期間は、勤務が終わってから次の勤務が始まるまでの時間です。拘束時間が上限を見る数字なのに対し、こちらは下限を確保する数字になります。
一般には、継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らないこととされています。11時間が目指す形、9時間が絶対の下限という二段の構えです。
ここが3つの中でいちばん軽く扱われがちですが、実際に運行が組めなくなるのはここからです。朝の出庫を早めたいのに、前夜の帰庫との間が足りない。この形でぶつかります。詳しくは休息期間とはにまとめました。
3つ目の軸:連続運転時間
連続運転時間は、続けて運転してよい時間です。一般には4時間以内とし、それを超える前に合計30分以上の中断を入れることとされています。現場では430休憩と呼ばれています。
30分はまとめて取らなくてもよく、1回おおむね10分以上の中断を合計して30分あれば足ります。ここがいちばん現場で揉める部分で、荷降ろしの時間が中断に入るのか、渋滞はどうなのか、という話になります。詳しくは430休憩とはにまとめました。
特例があるのは3つ目の軸だけではない
3つの軸には、それぞれ例外の形が用意されています。長距離や泊まりの運行では、原則どおりに組めないことがあるからです。
拘束時間には、宿泊を伴う長距離の運行についての扱いがあります。休息期間には、分割して与える形や、2人乗務の場合、フェリーに乗船する場合の扱いがあります。連続運転には、やむを得ない場合に4時間30分まで延長できる形があります。
どれも条件が細かく、使えると思って使ったら条件を外していた、という形が起きやすい部分です。自社の運行で使えるかどうかは、所轄の労働基準監督署に確かめてから運用に入れます。
覚え方としては、原則で組めるなら特例を使わないのが安全です。特例は条件を満たし続ける必要があるので、管理の手間が増えます。原則で回る運行に特例を持ち込むと、かえって煩雑になります。詳しくは分割休息と2人乗務の特例にまとめました。
3つは同時に満たす必要がある
3つの軸は独立しているので、片方を守っても、もう片方が外れることがあります。ここを取り違えると、守っているつもりで外れます。
たとえば、拘束時間が12時間で収まっていても、その中で連続5時間走っていれば連続運転の違反になります。逆に、430休憩をきちんと取っていても、荷待ちが長くて拘束が16時間になれば拘束時間の違反です。
3つとも別々に確かめる必要があります。まとめて「改善基準告示を守っている」と言えるのは、3つすべてを見たあとになります。
3つの軸が引っ張り合う
3つを同時に満たそうとすると、互いに引っ張り合うことがあります。ここを知っておくと、無理な組み方に気づけます。
430休憩をきちんと取ると、そのぶん帰庫が遅くなります。帰庫が遅くなれば、翌日の休息期間が削られます。休息期間を確保しようとすれば、翌日の出庫を遅らせることになり、その日の運行が短くなります。
つまり、3つを全部ぎりぎりで組むことはできません。どこかに余裕が無いと、少しの遅れで全部が崩れます。逆に言えば、3つのどれかに余裕がある運行は安定します。
現実的な組み方は、走行の時間を短めに見積もることです。渋滞も荷待ちも読めないので、予定を詰めるほど崩れます。片道3時間の便を3時間30分で組んでおくと、3つの軸が全部少しずつ楽になります。
2024年4月に何が変わったのか
改善基準告示は2022年12月に改正され、2024年4月から新しい内容が適用されています。何が変わったかを押さえておくと、古い資料に当たったときに気づけます。
主な変更は、拘束時間の上限が下がったことです。1年の拘束時間が3,516時間から3,300時間に、1か月が320時間から284時間になりました。休息期間も、8時間から9時間を下限とする形に引き上げられています。
古い記事や社内資料が残っていると、そのまま使って外れます。検索で出てくる解説記事にも改正前のものが混ざっているので、数字を確かめるときは公開日を見ます。社内で配っている手引きの類は、改正後のものに差し替えてあるかを一度確かめておく価値があります。
誰が見るのか、いつ見るのか
改善基準告示を見る人は3者います。それぞれ見方が違うので、備え方も変わります。
1つ目が労働基準監督署です。労働時間の側から見るので、日報と賃金台帳、タイムカードを突き合わせます。申告と記録のずれがいちばん見られる部分になります。
2つ目が運輸支局と適正化事業実施機関です。運行の安全の側から見るので、点呼記録簿、運行記録計、運行指示書を見ます。3つ目が、事故が起きたあとの調査です。
備えとしては、元になる書類がそろっていることが全部に効きます。日報の始業と終業、運行記録計の記録、点呼の時刻。この3つが矛盾なくそろっていれば、どの角度から見られても説明できます。
逆に、集計した表だけがきれいに作ってあって、元の書類と合わないのがいちばん悪い形です。表は元の書類から作るものであって、表を先に作って元をそろえるものではありません。
罰則と、実際に効いてくるところ
告示そのものに罰則が無いのに、なぜ守るのかという話です。効いてくる経路は3つあります。
1つ目が、労働基準監督署の監督指導です。違反が認められれば是正の指導を受けます。2つ目が、運輸支局への通報です。指導を受けた事実が運輸支局に伝わると、監査や行政処分につながることがあります。
3つ目が、事故が起きたときです。過労運転の防止義務に違反していたと判断されれば、会社の責任が問われます。このとき、改善基準告示を超えていた記録は不利に働きます。
つまり、罰則が無いのは告示そのものであって、守らなかった結果が無いわけではありません。行政処分の仕組みは行政処分と点数にまとめました。
時間外労働の上限とは別の話
改善基準告示とよく混ざるのが、時間外労働の上限規制です。別の制度なので、分けておきます。
改善基準告示は厚生労働大臣の告示で、拘束時間や休息期間を定めています。時間外労働の上限規制は労働基準法の側の話で、時間外労働そのものに上限を置くものです。自動車運転の業務については、年960時間という数字が2024年4月から適用されています。
2つとも同時に守る必要があります。拘束時間が3,300時間に収まっていても、時間外が960時間を超えていれば労働基準法の違反です。逆に、時間外が収まっていても拘束が超えていれば告示の違反になります。
混ざりやすいのは、どちらも時間の話で、どちらも2024年4月からだからです。見ているものが違うと覚えておけば取り違えません。告示は「縛られていた時間」、上限規制は「働いた時間のうち法定を超えた分」を見ています。
まとめて「2024年問題」と呼ばれているのは、この2つが同じ時期に効き始めたからです。詳しくは2024年問題と時間外960時間にまとめました。
自社の運行を3つの軸で見てみる
最後に、机の上でできる確認です。主な便を1本選んで、3つの軸に当てはめてみます。
拘束時間は、点呼の時刻から帰庫後の点呼までを足します。休息期間は、その帰庫時刻と翌日の始業を並べます。連続運転は、走行の区間を4時間で割ってみます。
3つを別々の紙に書き出すと分かりやすくなります。1枚目に時刻を並べて拘束時間、2枚目に前日の帰庫と並べて休息期間、3枚目に走行区間を並べて連続運転。同じ便を3回見ることになりますが、見る目が毎回違います。
やってみると、3つのうちどれが自社の弱点かが分かります。荷待ちの多い会社は拘束が、長距離の会社は連続運転が、早朝出庫の会社は休息期間が引っかかりやすくなります。弱点が分かれば、手を付ける場所が決まります。
全部の便でやる必要はありません。長距離の便、夜間の便、荷待ちの多い便。この3本を見れば、だいたいの傾向はつかめます。
社内でどう共有するか
数字を知っているのが運行管理者1人だけ、という会社が多くあります。それだと、配車の段階で反映されません。
共有する相手は2者です。1つ目が配車を組む人で、この人が知らないと無理な便が生まれます。2つ目が運転者本人で、知っていれば「この便は430が取れない」と声を上げてもらえます。
伝え方は、全部を教えようとしないことです。配車の人には3つの数字、運転者には自分に関わる2つで足ります。配車には13時間・11時間・4時間、運転者には4時間30分と11時間。この程度なら覚えられます。
実際に効くのは、数字の一覧よりも「この便は組めない」と言える人が増えることです。配車の人が11時間を知っていれば、前夜の帰庫を見てから翌日の出庫を決めるようになります。判断が1か所に集まっている状態が、いちばん崩れやすい形です。
紙1枚にまとめて、事務所と車内に貼っておくのが手軽です。分厚い手引きは読まれません。数字だけ書いた1枚のほうが、実際に使われます。
年に1回、改正が無いかを確かめて貼り替えます。2024年の改正のように数字が変わることがあるので、古い紙が貼られたままにならないようにします。
まとめ
改善基準告示は、拘束時間・休息期間・連続運転時間の3つの軸でできています。数字が多く見えるのは、それぞれに1日・1か月・1年の単位があるからで、覚えるのは原則の数字だけで足ります。
まず手を付けるなら、主な便を1本選んで3つの軸に当てはめてみるところからです。自社の弱点がどこかが分かれば、対策する場所が決まります。次に、社内に残っている古い資料が改正前の数字のままでないかを確かめておきます。
なお、上限の数値や特例の条件は制度で定められています。最終的な判断は、所轄の労働基準監督署にご確認ください。
改善基準告示は、覚える量が多いように見えて、実際に毎日使うのは3つの数字だけです。13時間、11時間、4時間。この3つが頭に入っていれば、配車の段階でおかしな便に気づけます。
3つの軸に分けてしまえば、改善基準告示は複雑な制度ではありません。数字が多く見えるのは、同じことを1日・1か月・1年の3つの単位で言っているからです。
よくある質問
改善基準告示は法律ですか。
厚生労働大臣が定める告示とされており、法律ではありません。そのため告示そのものに罰則の規定はありませんが、監督指導や行政処分につながる経路があります。
罰則が無いなら守らなくてもよいのですか。
違反が認められれば是正の指導を受けますし、運輸支局へ通報されて行政処分につながることがあります。事故が起きたときにも不利に働きます。
いつから新しい内容が適用されていますか。
2022年12月に改正され、2024年4月から適用されています。古い資料には改正前の数字が残っているので注意が必要です。
改善基準告示と労働基準法はどちらが優先しますか。
優先関係ではなく、両方を同時に守る必要があります。見ているものが違うので、片方を満たしても、もう片方は別に確かめます。
バスやタクシーも同じ数字ですか。
改善基準告示は業態ごとに内容が分かれており、トラック・バス・タクシーで数字が違います。自社がどれに当たるかで見る数字が変わります。
白ナンバーの社用車にも適用されますか。
改善基準告示は自動車運転者の労働時間についての基準です。適用の範囲は業務の実態によって変わるため、所轄の労働基準監督署に確かめるのが確実です。
特例は使ったほうがよいですか。
原則で組めるなら、使わないほうが管理は楽になります。特例は条件を満たし続ける必要があるため、そのぶん確認と記録が増えます。原則で回らない運行がある場合にだけ検討します。
3つの軸のうち、どれから手を付ければよいですか。
主な便を3つの軸に当てはめてみて、いちばん余裕の無いものからになります。荷待ちが多い会社は拘束時間、長距離が多い会社は連続運転から見ると当たります。