標準的な運賃とは?使い方と、交渉に持っていく形
目次
運賃の話をしたいが、何を根拠に言えばよいか分からない。標準的な運賃は、そういう場面で使うために公表されているものです。ただし、そのまま示せば通るわけではありません。自社の数字と組み合わせて持っていく形にすると、話が進みます。
この記事では、標準的な運賃を、何のためのものか、構成、自社の原価と並べる方法、交渉に持っていく形、届出との関係の順に整理します。公表されている内容と扱いは改定されます。最新のものは国土交通省や所轄の運輸支局の公表で確認してください。
結論:交渉の材料として公表されているもので、強制ではない
標準的な運賃は、運送事業が持続できる水準の運賃として示されたものです。
押さえるのは3つです。
1つ目は、目安として示されていることです。この金額で運ばなければならない、というものではありません。
2つ目は、交渉の材料になることです。「世の中ではこの水準が示されています」という根拠になります。
3つ目は、自社の原価と別のものだということです。自社の費用に基づく数字は、自分で出す必要があります。
3つ目が実務の分かれ目です。標準的な運賃だけを示しても、「うちはその金額は出せない」で終わります。自社の原価を並べて、なぜその金額が要るのかを説明できる形にしてください。
どういう構成になっているか
標準的な運賃は、距離と車両の大きさで表が作られています。
見るのは4つです。
1つ目は、地域です。運輸局の管内ごとに示されています。
2つ目は、車両の大きさです。車種ごとに金額が分かれます。
3つ目は、距離か時間です。距離制と時間制。
4つ目は、加算の考え方です。待機、付帯の作業、高速道路の料金など。
4つ目がいちばん交渉で使えます。「運賃」だけの話にすると、総額の押し引きになります。待機の時間、荷役の作業、燃料を別に立てて話すほうが、根拠が通ります。
自社の原価を出す
標準的な運賃を持っていくとき、自社の数字が要ります。
出すのは4つです。
1つ目は、車両にかかる費用です。減価償却、保険、税金、整備、タイヤ。
2つ目は、運行にかかる費用です。燃料、高速道路の料金、有料の駐車。
3つ目は、人にかかる費用です。給与、社会保険、教育。
4つ目は、間接の費用です。事務所、管理の人件費。
1年分を車両ごとに出してください。事業報告書のために集計している数字が、そのまま使えます。車両あたりの年間の費用と走行距離が出れば、1キロあたりの原価が計算できます。
交渉に持っていく形
材料がそろったら、渡す形を決めます。
作るのは4つです。
1つ目は、1枚にまとめることです。長い資料は読まれません。
2つ目は、上がった費用を具体に書くことです。燃料、人件費、保険。何が何パーセント上がったか。
3つ目は、標準的な運賃の該当する部分を示すことです。自社の運行に当たる区分。
4つ目は、求める金額と、その根拠です。
2つ目がいちばん効きます。「苦しいので上げてください」ではなく、「軽油が1リットルあたり◯円上がり、この運行で月◯円増えています」という形にします。相手も社内で説明する必要があるので、説明しやすい材料を渡してください。
待機と荷役を分けて話す
運賃だけの交渉は、行き詰まりやすくなります。時間と作業を別に立てます。
分けるのは4つです。
1つ目は、運送そのものの対価です。運賃。
2つ目は、待機の時間です。荷待ちの時間に対する料金。
3つ目は、荷役の作業です。積み込みや荷降ろしを運転者が行う場合。
4つ目は、附帯の作業です。仕分け、検品、棚入れ。
2つ目と3つ目は、記録が根拠になります。荷待ちの時間や荷役の作業の記録を残していれば、「この現場では平均◯時間待っています」と数字で言えます。感覚の話ではなくなります。
記録を根拠にする
交渉で効くのは、自社で取った記録です。
集めるのは4つです。
1つ目は、待機の時間の記録です。荷主ごと、現場ごと。
2つ目は、荷役の作業の時間です。
3つ目は、実際の走行距離と経路です。
4つ目は、費用の推移です。燃料の単価、人件費。
1つ目を荷主ごとに集計してください。「御社の現場では平均2時間、他社では30分です」という比較は、強い材料になります。取っていない事業者が多いので、取るだけで差がつきます。
届出との関係
運賃を変えるときは、届出が要ります。交渉と手続きはつながっています。
押さえるのは4つです。
1つ目は、運賃と料金の届出です。定められた期間内に届け出ます。
2つ目は、掲示することです。届け出た運賃料金表を掲示します。
3つ目は、実態と合っていることです。届け出た内容と違う運賃を収受していないか。
4つ目は、変えたときの社内への周知です。営業と経理に伝わっているか。
3つ目がずれている事業者があります。交渉して運賃を上げたのに、届出を出していないという形です。上げる話がまとまったら、届出の手続きもセットで進めてください。
断られたときの考え方
交渉が通らないこともあります。そのときの選択肢を持っておきます。
考えるのは4つです。
1つ目は、部分的に通すことです。運賃は据え置いて、待機料だけ認めてもらう。
2つ目は、条件を変えることです。待機が長い便を減らす、時間帯を変える。
3つ目は、取引の量を調整することです。
4つ目は、取引を終えることです。
1つ目から試してください。全部を一度に通そうとすると、話が止まります。待機料や高速道路の料金といった、相手も理由を認めやすい部分から始めると、次の交渉につながります。
交渉の時期を決める
運賃の交渉は、思い立ったときにやると通りません。時期を決めておきます。
見るのは4つです。
1つ目は、荷主の予算の時期です。年度の予算が決まる前に持っていきます。決まったあとでは、その年は動きません。
2つ目は、契約の更新の時期です。更新の話をする場に、運賃の話を乗せます。
3つ目は、費用が上がった直後です。燃料や人件費が上がった記憶が新しいうちに。
4つ目は、繁忙期の前です。相手が困る時期の前は、話を聞いてもらいやすくなります。
1つ目がいちばん効きます。荷主の予算が決まる時期を聞いておいて、その2、3か月前に持っていく形にしてください。年度が始まってから言っても、「今年は無理」で終わります。
断られた記録も残す
交渉の記録は、通らなかった分も残します。
残すのは4つです。
1つ目は、いつ、誰に、何を出したかです。
2つ目は、相手の反応です。断られた理由。
3つ目は、部分的に通ったことです。待機料だけ認められた、など。
4つ目は、次に話す時期です。
2つ目を残すと、次の材料が決まります。「原価の説明が足りない」と言われたのか、「予算の時期ではない」と言われたのか。理由によって、次に持っていくものが変わります。記憶に頼ると、同じ材料で同じ断られ方をします。
社内で運賃の考え方をそろえる
営業が複数いる事業所では、人によって出す金額が違うことがあります。そろえます。
決めるのは4つです。
1つ目は、下限の金額です。これ以下では受けない、という線。原価から決めます。
2つ目は、待機と荷役の扱いです。いくらから請求するか。
3つ目は、値引きの権限です。誰がどこまで決められるか。
4つ目は、断る基準です。採算が合わない依頼を断れる形にします。
1つ目が無いと、現場が個別に判断します。「取れる仕事は取る」という判断が続くと、忙しいのに利益が出ない状態になります。原価から出した下限を紙にして、営業に渡してください。
通ったあとに社内へ伝える
運賃が変わったら、社内の各所に伝える必要があります。
伝えるのは4つです。
1つ目は、経理です。請求の金額が変わります。
2つ目は、配車です。採算の判断が変わります。
3つ目は、運転者です。待機料が付くようになったなら、記録の取り方が変わります。
4つ目は、届出の担当です。手続きが要ります。
3つ目を忘れないでください。待機料を請求できるようになっても、待機の時間が記録されていなければ請求できません。運転者に「これからは待機の時間を必ず書いてください」と伝えるところまでが、交渉の仕上げです。
元請けと下請けのあいだで使う
多重の下請けが入る運送では、元請けとのあいだでも同じ話になります。
見るのは4つです。
1つ目は、実際に運ぶ距離と時間です。元請けが受けた条件と、下請けが実際に走る条件は違うことがあります。
2つ目は、待機と荷役を誰が負うかです。下請けが負っているなら、その対価が要ります。
3つ目は、中間の手数料の考え方です。
4つ目は、実運送の体制の記録です。誰が実際に運んだかを残す仕組み。
4つ目が制度として求められる場面が増えています。実際に運んだ事業者を記録する仕組みは、下請けの立場を示す材料にもなります。自社が実運送を担っているなら、その記録が交渉の根拠になります。扱いは所轄の運輸支局に確かめてください。
まとめ
標準的な運賃は、交渉の材料として公表されているものです。
- 目安であり、強制ではない。自社の原価と並べて初めて使える
- 構成は、地域・車両の大きさ・距離か時間・加算の4つ
- 交渉に持っていくのは1枚。上がった費用を具体の数字で書く
- 運賃だけでなく、待機・荷役・附帯の作業を分けて話す
- 通ったら届出の手続きもセットで進める
公表されている内容と扱いは改定されます。最新のものは国土交通省や所轄の運輸支局の公表で確認してください。
よくある質問
Q. 標準的な運賃で運ばなければいけませんか。 A. 目安として示されているもので、強制ではありません。交渉の材料として使います。この金額でなければ違反、というものではありません。
Q. 標準的な運賃を見せれば、上げてもらえますか。 A. それだけでは通らないことが多くあります。自社の原価と、上がった費用の具体の数字を並べてください。相手も社内で説明する必要があるので、説明しやすい材料を渡します。
Q. 自社の原価はどう出しますか。 A. 車両、運行、人、間接の4つに分けて、1年分を車両ごとに出します。事業報告書のために集計している数字がそのまま使えます。走行距離で割ると、1キロあたりの原価が出ます。
Q. 待機料はどう請求しますか。 A. 待機の時間の記録が根拠になります。荷主ごと、現場ごとに集計してください。「御社の現場では平均2時間」という比較は強い材料になります。
Q. 交渉が通りませんでした。 A. 全部を一度に通そうとせず、部分から試してください。待機料や高速道路の料金は、相手も理由を認めやすい部分です。1つ通ると、次の交渉につながります。
Q. 運賃を上げたら、届出が要りますか。 A. 運賃と料金の届出が求められます。届け出た内容と実際の運賃がずれている事業者があります。交渉がまとまったら、手続きもセットで進めてください。
Q. 標準的な運賃はどこで見られますか。 A. 国土交通省や運輸支局の公表で見られます。改定されることがあるので、最新のものを確かめてください。地域と車両の大きさで表が分かれています。
Q. 燃料が上がったことを、どう伝えますか。 A. 「1リットルあたり◯円上がり、この運行で月◯円増えています」という形にしてください。運行ごとの数字にすると、相手が判断しやすくなります。
Q. 荷役の作業を運転者がやっています。 A. 運送そのものの対価とは別に立てて話してください。作業の時間を記録しておくと根拠になります。契約の内容に入っているかも、あわせて確かめます。
Q. 待機の記録を取っていません。 A. 今日から取り始めてください。取っていない事業者が多いので、取るだけで差がつきます。運転日報に到着と出発の時刻を書く欄を作るところから始められます。
Q. 荷主が複数あります。どこから交渉しますか。 A. 待機や荷役の負担が大きいところからです。記録を荷主ごとに集計すると、順番が決まります。負担の大きいところほど、根拠の数字も出しやすくなります。
Q. 交渉の材料は、どのくらいの分量にしますか。 A. 1枚です。長い資料は読まれません。上がった費用、標準的な運賃の該当部分、求める金額と根拠。この4つが1枚に収まる形にしてください。
Q. 交渉はいつ持っていくのがよいですか。 A. 荷主の予算が決まる時期の2、3か月前です。年度が始まってから言っても、その年は動きません。予算の時期を聞いておいてください。契約の更新の時期も機会になります。
Q. 断られた記録を残す意味はありますか。 A. あります。断られた理由によって、次に持っていくものが変わります。「原価の説明が足りない」のか「予算の時期ではない」のか。記憶に頼ると、同じ材料で同じ断られ方をします。
Q. 営業によって出す金額が違います。 A. 原価から出した下限の金額を決めて、紙にして渡してください。値引きの権限と、断る基準もあわせて決めます。現場の個別の判断に任せると、忙しいのに利益が出ない状態になります。
Q. 運賃が上がったあと、何をしますか。 A. 経理、配車、運転者、届出の担当に伝えます。待機料が付くなら、待機の時間を記録する形を運転者に伝えてください。記録が無いと請求できません。
Q. 元請けから受けている仕事でも、運賃の話はできますか。 A. できます。実際に走る距離と時間、待機と荷役を誰が負っているかを数字で出してください。実運送の体制の記録が、自社が担っている範囲を示す材料になります。