整備管理者の選任|資格要件と研修の受け方
目次
整備管理者は、3つの管理者の中でいちばん影が薄い立場です。運行管理者のように毎日点呼をするわけでもなく、安全運転管理者のように日報を集めるわけでもないので、選任したあと何をしているのかが社内で見えにくくなります。
そのぶん、監査で「整備管理者の業務の記録は」と聞かれたときに何も出てこない、という形になりやすい立場でもあります。この記事では、整備管理者が必要になる条件、なれる人の要件、届出、そして選任後に残す記録を整理します。
結論:整備管理者は「車を走らせてよいかを決める立場」
整備管理者とは、事業所が使う自動車について、点検や整備を行い、車庫を管理し、その車を運行に使ってよいかどうかを決める立場のことです。運行管理者が人の側を見るのに対し、整備管理者は車の側を見ます。
ポイントはここです。整備管理者には、点検の結果にもとづいて運行の可否を決める権限があるとされています。「この車は今日は出せない」と言える人がいるかどうかが、この制度の要点になります。営業の都合で無理に出すことを止められる立場です。
一般には、道路運送車両法にもとづいて選任することとされています。運送事業者だけでなく、白ナンバーでも一定台数以上を使っている事業所が対象になります。
選任が必要になる台数
整備管理者が必要になる条件は、車の種類と台数で決まります。
一般には、乗車定員11人以上の自動車を1台以上使用する事業場、およびそれ以外の自動車を5台以上使用する事業場が対象とされています。ただし、対象になる車の範囲や台数は車種によって異なる部分があり、貨物の事業用自動車では5台以上とされています。
数字が安全運転管理者と似ているので、混ざりやすいところです。どちらも「11人以上なら1台から、それ以外は5台から」という形が出てきますが、根拠の法律が違い、届出先も違います。整備管理者は運輸支局、安全運転管理者は警察署です。
数えるのは事業場ごとです。ここも安全運転管理者と同じ考え方になります。車を複数の拠点に分けているか、1か所に集めているかで、必要な選任の数が変わります。
整備管理者になれる人の要件
整備管理者になるには、次のいずれかにあたることが必要とされています。
1つ目が、自動車整備士の技能検定に合格していることです。一級、二級、三級のいずれかの資格を持っていれば要件を満たします。
2つ目が、実務経験と研修による方法です。整備や整備の管理に関する実務経験が2年以上あり、かつ地方運輸局長が行う整備管理者選任前研修を修了していることとされています。
2つ目の道でつまずくのが、研修の順番です。選任前研修は、その名のとおり選任する前に受けるものとされています。先に選任してしまってから受けるのでは順番が逆になるため、人を決めた時点で研修の日程を押さえておきます。
研修は地域ごとに年数回しか行われないことがあります。回数が限られているため、車を増やす計画があるなら、台数が基準に達する前に研修を受けさせておくのが確実です。基準に達してから探し始めると、間に合わないことがあります。
実務経験の2年は、整備工場での経験に限られるわけではないとされています。自社で車の点検や整備の手配を担当してきた経験も該当する場合があるため、社内に候補がいないか確かめてみる価値があります。
整備管理者を「置けない」ときにどうするか
要件を満たす人が社内にいない、という相談は少なくありません。整備士の資格を持っている人はそもそも少なく、実務経験2年という条件も小さい会社では厳しくなります。
考え方は2つです。1つ目が、社内で育てることです。実務経験は、車の点検や整備の手配を担当していれば積める場合があります。いま誰も担当していないなら、まず担当を決めるところから始めます。2年はかかりますが、確実に積み上がります。
2つ目が、採用や配置換えで確保することです。整備士の資格を持っている人を採る、あるいはグループ会社から異動させる形になります。
どちらにしても時間がかかるので、台数が基準に近づいた時点で動き始める必要があります。5台目を買ってから探し始めると間に合いません。車を増やす計画と、人の手当ての計画を一緒に立てておきます。
届出と、選任後の研修
選任したら届出が必要とされています。ここも期限が短くなっています。
一般には、選任または解任した日から15日以内に、事業場の所在地を管轄する運輸支局へ届け出ることとされています。運行管理者と同じ窓口、同じ期限なので、あわせて覚えられます。
もう1つが、選任したあとの研修です。一般には、選任された整備管理者は、2年に1回、地方運輸局長が行う研修を受けることとされています。
この2年に1回を忘れるのが、いちばん多い指摘です。通知が届く形が一般的ですが、担当者が変わっていたり、事業所の住所が変わっていたりすると届きません。前回受けた年月を台帳や選任の記録に書いておき、2年後を自分で管理する形にしておくと確実です。
選任後に残す記録
整備管理者の業務は、日々の目に見える動きが少ないため、記録が残っていないことがよくあります。監査で困るのはここです。
残しておきたいものが3つあります。1つ目が、日常点検の実施の状況を確認した記録です。運転者が行った日常点検の結果を受けて、整備管理者が確認したことを残します。
2つ目が、定期点検整備の記録です。事業用自動車には点検の周期が決まっているとされており、実施した記録を一定期間保存することとされています。次回の予定日まで書いておくと、切らさずに回せます。
3つ目が、運行の可否を決めた記録です。点検で異常が見つかって出さなかった、修理して出した、という判断の跡になります。これが1件も無い状態は、判断していないようにも見えます。
記録は車両管理台帳と紐づけておくと管理が楽になります。台帳の側に点検の実施日と次回予定日を持たせ、中身は点検記録簿の側に置く形です。詳しくは車両管理台帳とはにまとめました。
補助者を置いて業務を回す
整備管理者にも、業務を補助する人を置く形があります。1人で全部を抱えていると、休んだ日に運行の可否を決められなくなるからです。
補助者は、整備管理者の指揮のもとで日常点検の確認などを行います。ただし、運行の可否を最終的に決めるのは整備管理者とされているので、判断そのものを委ねる形にはしません。異常が見つかったときに整備管理者へつなぐ道筋を決めておきます。
台数が多い事業場では、日常点検の確認だけでも毎朝それなりの時間がかかります。ここを補助者に分担できると、整備管理者は記録の確認と整備の手配に時間を使えるようになります。
補助者を置く場合も、誰が補助者なのかは事業場で分かるようにしておきます。名簿にしておけば、監査のときの説明が早く終わります。
点検の周期を車ごとに持つ
整備管理者の業務を回すうえで、最初に整えておきたいのが点検の周期です。ここが車ごとに違うため、まとめて同じ扱いにすると外れます。
事業用自動車には定期の点検の周期が定められているとされており、車の種類や用途によって変わります。同じ会社の中でも、緑ナンバーのトラックと白ナンバーの営業車では周期が違うことになります。
周期は、車検の時期とは別に来ます。車検を受けた月とずれるので、車検だけを追っていると点検を飛ばすことになります。車検と定期点検は別の予定として台帳に持たせます。
「うちは3か月ごと」と一律に決めてしまうのが、よくある間違いです。車両管理台帳に、車ごとの周期と次回の予定日を持たせておくと、この取り違えが起きません。
周期が短い車ほど、予定を先に押さえておく必要があります。整備工場の都合もあるので、直前に連絡すると入庫できないことがあります。台帳で2か月先まで見る運用にしておけば、余裕をもって手配できます。
点検の記録は、実施した日と、見た項目と、結果を残します。異常が見つかって整備した場合は、その内容と日付も残します。次回の予定日まで書いておくのが、切らさないこつになります。
3つの管理者を並べて整理する
ここまでで、運行管理者、安全運転管理者、整備管理者の3つが出てきました。名前が似ているので、最後に並べておきます。
運行管理者は、緑ナンバーの運送事業で、営業所ごとに、人の側を見ます。届出先は運輸支局です。安全運転管理者は、白ナンバーの社用車について、事業所ごとに、運転者の状況と日報を見ます。届出先は警察署です。整備管理者は、車の側を見て、運行の可否を決めます。届出先は運輸支局です。
運送会社では、3つとも必要になることがあります。緑ナンバーのトラックがあれば運行管理者と整備管理者、営業用の白ナンバーが5台あれば安全運転管理者。同じ会社に3つの制度が並行して動く形です。
それぞれの選任と届出は別の手続きなので、まとめて管理する表を1枚作っておくと抜けません。誰が、いつ選任され、いつ届け出て、次の研修がいつか。これが1枚にあれば、人が入れ替わっても引き継げます。
日常点検の確認をどう回すか
整備管理者の業務のうち、毎日発生するのが日常点検の確認です。ここが形だけになっている事業場が多いので、回し方を書いておきます。
日常点検そのものは、運転者が運行の前に行うものとされています。整備管理者がやるのは、その結果を確認して、異常があれば手を打つことです。点検を代わりにやることではありません。
確認の形は、点呼と組み合わせるのがいちばん確実です。点呼は毎日必ず行う場面なので、そこに乗せておけば忘れません。別の場面を新しく作ると、忙しい日に飛ばされます。乗務前点呼で日常点検の実施を確かめる場面があるので、そこで異常の有無も聞きます。異常があれば、整備管理者へつなぎます。
つなぐ道筋を決めていないと、ここで止まります。運転者が「ブレーキの効きが悪い気がする」と言ったとき、点呼をした補助者がどうすればよいかが決まっていないと、そのまま出てしまいます。誰に、どうやって連絡するかを1行で決めておきます。
記録は、異常があった日だけ詳しく残せば足ります。毎日「異常なし」と書くだけの用紙は、あってもなくても同じになりがちです。異常があった日に、何が起きて、どう判断して、いつ直したかが追える形になっていれば、業務の実態を示せます。
外部の整備工場とどう組むか
自社で整備をしていない会社のほうが多数です。その場合、整備管理者の業務は工場との橋渡しが中心になります。
決めておくことが3つあります。1つ目が、どの工場に頼むかです。複数の工場に分散していると、車ごとの履歴が散らばります。1社にまとめておくと、過去の整備の経緯を工場側も把握してくれます。
2つ目が、記録をどう受け取るかです。点検整備記録簿は、整備した工場が作成します。それを受け取って保存するのが会社の側の仕事になります。渡してもらう約束をしていないと、工場の側に残ったままになることがあります。
3つ目が、異常が見つかったときの連絡の道筋です。工場が「このまま走らせないほうがよい」と判断したとき、その連絡が誰に届くか。配車の担当者に直接届く形になっていると、整備管理者を通らずに運行の可否が決まってしまいます。
3つとも、工場と取引を始めるときに決めておけば済む話です。何年も続いている取引で決まっていない場合は、次の入庫のときに確かめておきます。
3つ目がいちばん大事です。整備管理者に運行の可否を決める権限があるのは、営業の都合で無理に出すことを止めるためです。連絡が整備管理者を通らない形になっていると、その仕組みが働きません。
工場に対しても、連絡先は整備管理者であることを最初に伝えておきます。
まとめ
整備管理者は、点検と整備を管理し、その車を運行に使ってよいかを決める立場です。乗車定員11人以上なら1台から、それ以外は5台からが対象とされており、届出は選任から15日以内に運輸支局へ出します。
まず手を付けるなら、前回の選任後研修を受けた年月を確かめるところからです。2年に1回の研修を受けていない状態が、いちばん多い指摘になります。次に、運行の可否を判断した記録を残す形にしておくと、業務の実態を示せます。
なお、ここに書いたのは一般的な形です。自社に何が求められるかは、車種や台数、事業の種類によって変わります。最終的な判断は、所轄の運輸支局にご確認ください。
整備管理者は、置いていることより、判断していることが見える状態かどうかで評価されます。運行を止めた記録が1件でもあれば、その事業場は機能していると分かります。
よくある質問
整備管理者は何台から必要ですか。
一般には、乗車定員11人以上の自動車を1台以上、またはそれ以外の自動車を5台以上使用する事業場が対象とされています。車種によって範囲が異なる部分があるため、自社の車で確かめるのが確実です。
整備管理者は整備工場を持っていないとなれませんか。
自社で整備を行っている必要はありません。点検や整備を外部の工場に委託している場合でも、その手配と結果の確認を行い、運行の可否を判断するのが整備管理者の役割になります。
整備管理者と安全運転管理者は何が違いますか。
見るものが違います。整備管理者は車の状態を見て運行の可否を決め、安全運転管理者は運転者の状態と運転の記録を見ます。根拠になる法律も届出先も別で、整備管理者は運輸支局、安全運転管理者は警察署が窓口になります。
整備士の資格が無くてもなれますか。
なれる場合があります。整備や整備の管理に関する実務経験が2年以上あり、選任前研修を修了していれば要件を満たすとされています。
選任前研修はいつ受けるのですか。
選任する前に受けるものとされています。先に選任してから受ける形では順番が逆になるため、人を決めた時点で日程を押さえます。
選任後の研修はどのくらいの頻度ですか。
一般には2年に1回とされています。通知が届く形が多いのですが、届かないこともあるため、前回の年月を自社で管理しておくのが安全です。
運行管理者と整備管理者を兼任できますか。
兼任が直ちに禁じられているわけではありません。ただし、どちらも実際の業務があるため、台数が多い事業所では現実的に難しくなります。
整備管理者を選任しないとどうなりますか。
選任が必要な事業場で置いていない状態は、指摘や処分の対象になります。あわせて、点検の記録や運行の可否の判断も残っていないことが多く、監査では重く見られます。