時間外960時間とは?拘束時間との違いと数え方
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拘束時間は管理しているのに、時間外960時間のほうは別の表で数えている。あるいは、拘束時間の表を見ながら「これで960時間も足りているはず」と思っている。どちらも、運送業の事業所でよく見かける形です。
この記事では、時間外960時間を、拘束時間との違いから整理します。読み終えたときに、自社が持っている表のどこを見れば960時間の残りが分かるのか、判断できる状態を目指します。
結論:時間外960時間は労働基準法の上限で、拘束時間とは別の数字
時間外960時間とは、自動車運転の業務に適用される、時間外労働の年間の上限のことです。2024年4月から適用されている労働基準法の規定とされています。
一般の業種では、時間外労働の上限は年720時間で、月45時間を超えられるのは年6か月まで、といった細かい条件が付いています。自動車運転の業務はその適用が猶予されていましたが、猶予が終わり、年960時間という上限が入った形になっています。
ポイントはここです。時間外960時間と改善基準告示の拘束時間は、数えている中身が違います。拘束時間は「会社に縛られている時間」で、休憩も含みます。時間外労働は「所定の労働時間を超えて働いた時間」で、休憩は含みません。同じ運行でも、出てくる数字は一致しません。
そのため、拘束時間の表だけを見て「まだ余裕がある」と判断するのは危険です。2つは別の物差しなので、片方が収まっていても、もう片方が先に上限に当たることがあります。
拘束時間との違いを、1日の運行で見る
違いは、1日の運行に当てはめると分かりやすくなります。朝8時に出勤して、途中で1時間の休憩を取り、20時に業務を終えた日を考えます。
このとき拘束時間は12時間です。休憩を含めて、始業から終業までを数えるためです。改善基準告示の1日の拘束時間の上限は原則13時間とされているので、この日は収まっています。
一方、労働時間は11時間です。休憩の1時間を引くためです。所定労働時間が8時間の会社であれば、時間外労働は3時間になります。960時間の側には、この3時間が積み上がります。
この形が毎日続けば、1か月20日で時間外は60時間、12か月で720時間です。まだ960時間には届きません。ここに、休日出勤や長距離の便が乗ってくると、一気に近づきます。平常の便ではなく、上乗せの便が上限を決めるという見方をしておくと、見通しが立ちます。
960時間に入るもの、入らないもの
数えるときに迷うのは、どの時間を時間外労働に入れるかです。区別の基準は「労働時間かどうか」で、拘束されているかどうかではありません。
入るのは、運転している時間、荷役の時間、点呼や日報を書いている時間、指示を待っている手待ちの時間です。手待ちは休憩に見えますが、いつ呼ばれるか分からない状態であれば労働時間とされています。
入らないのは、自由に使える休憩時間です。車両を離れて自由に過ごせる形であることが前提になります。車内で待機していて、荷主から呼ばれたらすぐ動く状態は、休憩ではなく手待ちに当たるとされています。
荷待ちの扱いが、実務ではいちばん揉めます。運転者が「休んでいた」と感じていても、拘束されていれば労働時間になります。荷待ちの開始と終了の時刻を記録に残しておくと、後から数え直せます。
月ごとの上限は別にある
年960時間だけを見ていると、月の途中で上限に当たることがあります。時間外労働には、月ごとの規定も残っているためです。
自動車運転の業務では、月100時間未満や複数月平均80時間以内といった一般の上限は適用されないとされていますが、36協定で定めた月の上限は当然に効きます。協定で月60時間と決めているなら、年960時間に余裕があっても、月60時間を超えれば協定違反になります。
そのため、管理は月単位で持つことになります。年の残りだけを見ていると、3月に残り200時間あっても、その月に使える上限は協定の数字までしかない、という形になります。
自社の36協定に何時間と書いてあるかは、控えを出して確かめます。協定の内容は事業場ごとに違うため、他社の数字は参考になりません。分からない場合は、所轄の労働基準監督署に届出の控えの見方を聞くのが確実です。
月で管理すると、もうひとつ良いことがあります。年の残りを12で割った数字が、その月に使える目安になるという見方ができる点です。年960時間なら1か月あたり80時間。7月までに560時間使っていれば、残り5か月で400時間、1か月あたり80時間のままです。逆に7月までに700時間使っていれば、残り5か月で260時間、1か月あたり52時間まで落ちます。
この形で出しておくと、繁忙期が来る前に配車を変えられます。年の累計だけを見ていると、数字は大きいので余裕があるように見えます。月あたりに割り直したときに初めて、あと何時間ずつしか使えないのかが分かります。
改善基準告示と両方を満たす必要がある
時間外960時間を守っていれば改善基準告示も満たす、という関係にはなっていません。2つは別の制度で、どちらも同時に満たす必要があります。
改善基準告示は、1日の拘束時間、1か月の拘束時間、1年の拘束時間、休息期間、連続運転時間を定めています。厚生労働大臣が定める告示とされており、違反すると労働基準監督署の指導の対象になり、運輸支局へ通報されて行政処分につながる形になっています。
時間外960時間は労働基準法の規定で、違反すると罰則の対象になるとされています。根拠も、効いてくる相手も違います。
実務では、片方だけを管理している事業所が少なくありません。拘束時間の表はあるが時間外の集計が無い、あるいはその逆です。どちらか一方だけでは、もう片方の違反を見つけられません。
1枚の表で両方を見る形にする
数える中身が違っても、元になる時刻は同じです。始業時刻、終業時刻、休憩の時間の3つがあれば、拘束時間も労働時間も計算できます。
作るのは、運転者ごと・日ごとの行を持つ表です。列は、始業、終業、休憩、拘束時間、労働時間、時間外労働の6つ。拘束時間と時間外労働を同じ行で出すのが要点で、別々の表にすると突き合わせが要ります。
そのうえで、月の合計と年の累計を別の行に出します。見るのは、月の合計が36協定の上限に触れていないか、年の累計が960時間にどれだけ近いか、そして改善基準告示の月の拘束時間に収まっているかの3つです。
入力するのは3つの時刻だけなので、運転日報から転記できます。運転者に計算をさせない形にしておくと、記入漏れが減ります。
36協定に何を書くかで、使える時間が決まる
年960時間は法律の上限ですが、自社で実際に使えるのは36協定に書いた時間までです。協定を結んでいなければ、そもそも時間外労働をさせられない形になります。
自動車運転の業務では、専用の様式で届け出るとされています。書く内容は、時間外労働をさせる必要のある具体的な事由、対象になる業務の種類と人数、1日・1か月・1年それぞれの延長できる時間、協定の有効期間です。
ここで書いた1年の時間が、960時間より短ければ、短いほうが自社の上限になります。「法律では960時間まで大丈夫」と思っていても、協定に720時間と書いてあれば720時間です。実態に合っていない数字を書いていると、繁忙期に協定違反が出ます。
協定は毎年結び直すものとされているので、更新のときに前年の実績と突き合わせるのが要点です。前年に一度も超えなかったなら下げてよいですし、何人かが張り付いていたなら、時間ではなく人と便の組み方を見直す必要があります。数字だけを上げると、上限に合わせて働き方が伸びます。
つまずきやすい3つの読み違い
運送業の事業所で実際によく起きるのは、次の3つです。どれも、悪意ではなく物差しの取り違えから起きます。
1つ目は、拘束時間の表をそのまま時間外の管理に使ってしまう形です。拘束時間には休憩が入っているため、同じ数字を時間外として見ると、実際より多く見積もることになります。多く見積もるぶんには安全に見えますが、逆に「まだ960時間に遠い」と読んでしまう事業所もあります。所定労働時間が短い会社ほど、拘束時間が同じでも時間外は多く出ます。
2つ目は、年の起算日を4月1日だと思い込む形です。起算日は36協定で定めた期間によります。10月起算で協定を結んでいるなら、年の区切りは10月です。年度で数えていると、区切りの前後で二重に数えたり、逆に空白ができたりします。
3つ目は、運転者以外の時間外を混ぜてしまう形です。年960時間は自動車運転の業務に適用される上限で、事務や整備の従業員には一般の上限が適用されるとされています。同じ表で管理していると、どちらの上限で見るべきかが分からなくなります。業務の種類で行を分けておくと混ざりません。
3つとも、表を作るときの列の決め方で防げます。所定労働時間を列に持ち、起算日を表の見出しに書き、業務の種類で行を分ける。作る前に決めておけば、後から数え直す作業が要りません。
まとめ
時間外960時間は、自動車運転の業務に適用される時間外労働の年間の上限で、2024年4月から効いています。改善基準告示の拘束時間とは、数えている中身が違います。
拘束時間は休憩を含み、時間外労働は休憩を含みません。同じ運行でも数字は一致しないため、拘束時間の表だけで960時間の残りを判断することはできません。
管理は月単位で持ちます。年の残りに余裕があっても、36協定で定めた月の上限を超えれば協定違反になります。自社の協定の数字は控えで確かめ、分からない場合は所轄の労働基準監督署に確かめるのが確実です。
始業・終業・休憩の3つの時刻があれば、拘束時間も時間外労働も同じ表から出せます。別々の表にせず、1枚で両方を見る形にしておくと、突き合わせの手間が消えます。
実際に使える様式が必要な方へ
拘束時間と時間外労働を同じ行で集計できるExcelの表が、商い屋の運送業向けのページにあります。読んだあと、そのまま自社の数字に当てはめられます。
この様式をひらくよくある質問
Q. 時間外960時間に、休日労働は入りますか。 A. 自動車運転の業務では、休日労働を含まない形で年960時間とされています。ただし休日労働が無制限になるわけではなく、36協定で定めた回数と時間の範囲に収まる必要があります。協定の内容は事業場ごとに違うので、自社の控えで確かめます。
Q. 拘束時間が改善基準告示に収まっていれば、960時間も自動的に収まりますか。 A. 収まるとは限りません。改善基準告示の1年の拘束時間は原則3,300時間とされていますが、これは休憩を含んだ数字です。所定労働時間が短い会社ほど、同じ拘束時間でも時間外労働は多く出ます。2つは別に数える必要があります。
Q. 荷待ちの時間は960時間に入りますか。 A. 労働時間に当たる場合は入ります。いつ呼ばれるか分からない状態で待っているなら手待ちとされ、労働時間として扱う形になります。車両を離れて自由に過ごせる休憩であれば入りません。区別が付くように、荷待ちの開始と終了の時刻を記録に残しておきます。
Q. 年の途中で運転者が入社した場合、960時間はどう数えますか。 A. 起算日は36協定で定めた期間によります。協定の起算日から1年を数えるのが一般的な形とされているため、年の途中で入社した運転者は、その年度の残りの期間で数えることになります。扱いが分かれる場合は、所轄の労働基準監督署に確かめるのが確実です。
Q. 960時間を超えそうなとき、先に手を打てることはありますか。 A. 月ごとの累計を出しておくと、年の後半に入る前に見えます。上限に近づいた運転者を長距離の便から外す、休日の出勤を他の運転者に振る、といった配車の調整が取れます。年度末に気づくと、選べる手がほとんど残りません。
Q. 時間外960時間は、事業所ごとに数えますか。運転者ごとに数えますか。 A. 運転者ごとに数えます。上限は個人に対してかかるものとされているため、事業所の延べ時間で見る形ではありません。運転者が少ない事業所ほど1人あたりの負担が偏りやすいので、人ごとの累計を出しておくと、偏りがその場で見えます。
Q. 副業や兼業をしている運転者は、その時間も足しますか。 A. 労働時間は事業場が異なっても通算するとされています。他社で働いている時間がある場合は、自社の時間と合わせて見る必要が出てきます。実際にどこまで通算するかは働き方によって分かれるため、所轄の労働基準監督署に確かめるのが確実です。